【ロボティクスの教科書 第1回】量産元年——実験室から工場へ

こんにちは。迅です。

ロボットのニュースを見ると、歩いた、物をつかんだ、会話したという映像に目が向きます。ただ、産業として立ち上がるかを決める場所は実験室のデモだけではありません。同じ品質の機体を、決めた時間とコストで繰り返し作れるか。故障を出荷前に見つけ、現場で起きた不具合を次の設計へ戻せるか。ここにロボティクス産業の新しい競争軸があります。

3行にすると

  • Figureは第3世代のFigure 03を量産向けに再設計し、BotQで1日1台から1時間1台のサイクルタイムを120日未満で実証した
  • 量産を読む数字は台数だけでなく、工程内検査、完成品の初回合格率、主要部品の歩留まり、完成検証の深さにある
  • 累計350台超と年産最大1万2,000台を、外販実績や実生産台数と取り違えず、供給先と数字の定義まで確認する

量産元年を決めるのは「設計の変化」

Figureが2025年10月に発表したFigure 03は第3世代のヒューマノイドです。会社はこの機体を、初めて高数量生産を前提に一から設計したロボットと説明しています。Figure 02の延長で生産設備だけを増やしたのではなく、ほぼすべての部品を製造しやすさとコストの観点から見直しました。

変化が分かりやすいのが部品の作り方です。Figure 02では金属の塊を機械で削るCNC加工が中心でした。少数の試作では形を柔軟に変えられますが、加工に時間がかかります。Figure 03では金型を使うダイカスト、射出成形、プレス加工へ比重を移しました。金型への先行投資が必要でも、数量が増えるほど1個あたりの時間とコストを下げやすくなります。

会社は部品点数、組立工程、設計要件に不可欠でない部品も減らしました。2025年3月のBotQ発表では従来1週間以上かかった部品を複雑な金型によって20秒未満で作れる例を示しています。これはロボットが「作動する設計」から「繰り返し作れる設計」へ移ったことを表します。

1時間1台は継続出荷ではなく、工程能力の実証

Figureは2026年4月、BotQにおけるFigure 03の生産速度を1日1台から1時間1台へ高め、24倍の処理能力改善を120日未満で達成したと発表しました。ただし、ここは慎重に読みます。会社の表現によると、目標に必要な「1台あたり1時間のサイクルタイムを実証した」となります。毎時間1台を24時間、継続して出荷したという開示ではありません。

サイクルタイムとは工程から完成品を1台送り出す間隔です。短時間だけ目標へ届くことと、部品不足、設備停止、不合格品を含めても毎週同じ速度を保つことは別です。次に見るべき数字として、稼働時間、設備停止率、計画に対する実生産数、不良による手直し時間が挙げられます。

同じ発表で、BotQから供給された第3世代ロボットは350台を超えました。これも外部顧客へ350台を販売、納入したという意味ではありません。会社は供給した機体を、社内の研究開発、データ収集、家事を一連で行うための開発、商用利用の開発へ配分したと説明しています。生産台数が増えるほど、現実の環境から故障と動作のデータを集められる。量産設備は売上を作る場所である前に、AIと機体を改善する学習装置になっています。

完成台数より先に、歩留まりを見る

量産で難しいのは1台を完成させることではなく、同じ品質で何台も通すことです。Figureは完成品のEOL、つまり最終工程における初回合格率が80%を超え、週ごとに改善していると開示しました。初回合格率とは手直しをせず、最初の検査で合格した比率です。80%超なら進展は大きい一方、最大で2割弱に調整や修理が残る可能性があります。

ヒューマノイドは関節、電池、センサー、電子基板、ソフトウェアが連動します。一つの部品のばらつきが、歩行や把持の不安定さとして完成時に現れます。Figureは不良を最後だけで見つけるのではなく、組立途中に50を超える検査点を置きました。完成した各機体にも80を超える機能検証を行い、複数の手足への負荷試験、スクワット、ショルダープレス、ジョギングなどを数千回単位で繰り返す慣らし試験を実施しています。

部品別の数字も重要です。電池ラインの初回合格率は99.3%で、500個を超える電池パックを供給しました。アクチュエーターは10種類を超える品目で9,000個超を生産しています。アクチュエーターは電気を関節の動きへ変える駆動部です。完成品の台数だけでは見えない主要部品の生産量と歩留まりが、量産速度を支えています。

量産の数字を五つの観察軸へ分ける

ロボティクス企業の量産発表を次の五つに分けると、読み違いが減ります。

観察軸Figureの開示次に確認すること
速度1時間1台のサイクルタイムを実証継続稼働時の実生産数と停止時間
工程品質50を超える工程内検査点不良の発生工程と手直し時間
完成品質EOL初回合格率80%超、80を超える機能検証合格率の改善と現場故障率
主要部品電池FPY99.3%、500個超。駆動部9,000個超部品別の能力、原価、供給制約
用途350台超を社内開発、データ収集、家事、商用用途開発へ配分有償納入、稼働時間、顧客業務での成果

FPYはFirst Pass Yieldの略で、手直しなしの初回合格率を指します。完成品と部品でFPYを分けると、完成品の不合格が設計問題なのか、特定部品なのか、組立工程なのかを切り分けられます。量産KPIでは速さ、品質、コストを一組で見ます。速度だけを上げて手直しが増えれば、実際の生産能力と粗利は改善しません。

年産1万2,000台は実績ではなく、初代ラインの設計能力

BotQの初代生産ラインは年間最大1万2,000台を生産できる能力として設計されました。この数字も実績ではありません。年産能力とは設備が想定通り動き、部品、人員、品質がそろった場合に狙える上限です。2026年4月時点で開示された供給実績は350台超であり、1万2,000台を生産したわけではありません。

さらにFigureはアクチュエーター、電池、センサー、構造部品、電子機器など重要なモジュールを内製しています。内製によって品質と設計変更を早く管理できる一方、設備投資、在庫、人材、歩留まり改善も自社で背負います。外部委託より優れていると一律に決めることはできません。量産が伸びる局面では内製部品の能力が完成ラインより先に詰まっていないかを確認します。

ロボティクスの量産元年とは販売台数が一気に最大能力へ届いた年ではありません。設計、部品、検査、製造ソフト、現場データが一つの循環として動き始めた年です。映像の動きだけでなく、初回合格率と部品歩留まり、検査数、用途配分まで読むと、実験室から工場へ移る企業の距離が見えてきます。

次回は「頭脳と身体は別の会社が作る」です。


※本記事は情報提供・教育を目的としており、個別銘柄の売買を推奨するものではありません。企業の生産能力、品質指標、導入計画は変更される可能性があります。

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