こんにちは迅です。
今日から「NVIDIAの教科書」を始めます。世界のAIがなぜ今、ほぼ1社のチップの上で動いているのか。ニュースの切り取りではなく、構造から掴めるようにする講座です。
この回を一行で言うと「NVIDIAという1社の地図を持てば、AIをめぐる世界のニュースが1本の線でつながる」です。
まず信じられない数字から。NVIDIAはたった3ヶ月で816億ドル、日本円でおよそ12兆円を売り上げました。1年ではなく3ヶ月です。その一方でこの会社、何度も倒産しかけています。創業者ジェンスン・ファンが社内で言い続けた口癖が「我が社は倒産まであと30日だ」。倒産寸前のゲームチップ会社がなぜ世界一価値のある企業のひとつになったのか。ここから解剖していきます。
王者の規模を3つの数字で体に入れる
会社を理解するとき、いきなり細かい話に行くと全体を見失います。だから最初に規模を体に入れます。覚える数字は3つだけです。
1つ目は四半期売上816億ドル。前年から85%増えています。すでに巨大な会社がまだ85%で伸びている。普通の会社は大きくなるほど伸びが鈍りますが、NVIDIAは逆です。通期で見ると売上2159億ドル、およそ32兆円で前年比65%増。トヨタに迫る規模の会社がまだ加速している。まずこれが異常です。
2つ目はデータセンターが全社売上の92%を占めること。NVIDIAは元々ゲーム用のチップ会社でしたが、今やゲームはおまけで、売上のほぼ全部がAIを動かす巨大な計算工場向けのチップから生まれています。「ゲーム会社」だと思っているうちはこの会社を理解できません。
3つ目は粗利益率75%。100円売って原価25円、手元に75円残る計算です。普通のモノづくりは30%もあれば優秀ですから、この75%は「他に作れる会社がない」状態の値づけです。
お金の使い道にも自信が出ています。直近で800億ドル、およそ12兆円の自社株買いを追加で決め、配当を1株1セントから25セントへ25倍に引き上げました。会社の自信は言葉より現金の動きに出ます。
30年の仕込みが号砲で花開いた
この強さはここ数年で生まれたものではありません。始まりは1993年、アメリカのファミレス「デニーズ」のテーブルに集まった3人のエンジニアです。最初の10年はほぼ生き地獄で、初期の製品は方向性を外し、資金は何度も尽きかけました。
転換点は4つです。1999年、GeForce 256で「GPU」という言葉を発明し、ゲーム向けの覇権を握った。2006年、GPUをゲーム以外の計算にも使えるようにするソフト「CUDA」を公開した。当時は「誰がゲーム用チップで科学計算なんてするんだ」と笑われましたが、2012年、研究者がNVIDIAのGPUを2枚使って画像認識AIを学習させ、世界記録を大幅に塗り替えます。AlexNetという事件です。6年越しの仕込みがここで効きました。そして2019年、チップ同士を高速でつなぐネットワーキングの会社Mellanoxをおよそ70億ドル(約1兆500億円)で買収。地味に見えたこの手が、今、前年比+199%で伸びている部門の正体です。
4つを貫くキーワードは仕込みの早さです。NVIDIAはいつも数年先を先回りして手を打っています。
2本の矢印と価値の移動
ここからシリーズを最後まで貫く補助線を渡します。
1本目の矢印は「学習」から「推論」へ。学習はAIを育てる段階、推論はその賢くなったAIを実際に使う段階です。学習の時代はNVIDIAの独壇場で、だから粗利75%の値づけができました。でも推論の勝負は「どれだけ安く省電力で動かせるか」に移り、AMDもGoogleもAmazonも自前チップで殴り込んできます。NVIDIAも次世代チップ「ベラ・ルビン」で推論コストを10分の1に下げる設計を打ち出していますが、一強が初めて揺さぶられる戦場です。
2本目の矢印は「デジタル」から「物理」へ。これまでのAIは画面の中の住人でしたが、ここから体を手に入れます。ヒューマノイドロボット、自動運転、手術ロボット。ロボットの脳に入る小型チップ「ジェットソン」、仮想空間で何万回も訓練させる「オムニバース」、頭脳のもとになる基盤モデル「GR00T」。体はいろんな会社が作っても、脳の土台はNVIDIAという構図です。
そしてもう1本、価値が宿る場所の移動です。順番はチップ→メモリ→電力→文脈。なぜMicronの株価が1年で2倍を超えたのか。価値がチップからメモリへ動いたからです。なぜ原子力や電力のニュースが増えたのか。チップを動かす電力が足りず、エネルギーが事実上の通貨に変わりつつあるからです。そして最後に残るのは語り手の文脈と世界観だと僕は見ています。この補助線を頭に置けば、バラバラの事件に見えていたニュースが同じ流れの一部だと分かります。
深掘り|決算は「期待との差」で動く
第1回でいちばん厚く渡したいのがここです。NVIDIAは2026年5月、過去最高の決算を出しました。それなのに株価は下がった。数字が悪かったからではなく、市場の期待がそれ以上に高かったからです。決算は数字そのものより「期待との差」で動く。だから見出しではなく中身を自分で読めることが武器になります。見る場所は決まっています。
第一に成長曲線。直近3四半期の売上は570億ドル→681億ドル→816億ドル(約8.6兆円→約10.2兆円→約12兆円)、伸び率は+62%→+73%→+85%。額より伸び率の変化を見ます。減速ではなく加速している。ここが折れたときが最初のサインです。
第二に粗利率。四半期は約75%、通期は約71%。ニュースが「粗利率が71%に低下」と書いても、期間が違うだけで別の不調ではありません。
第三に中身の構成。データセンターはコンピュート604億ドル(約9.1兆円、+77%)とネットワーキング148億ドル(約2.2兆円、+199%)に分かれます。注目は+199%のほうです。AIの計算は1個のチップでは終わらず、何万個も束ねて初めて動く。束ねる技術で稼げているかどうかが、チップ売りからシステム売りへ進化できているかの物差しになります。
第四に、いちばん重い論点が循環取引です。NVIDIAがAIスタートアップに出資し、そのスタートアップがそのお金でNVIDIAのチップを買う。試算ではこの循環が2026年の売上の約15%を占めるとも言われます。「自分で需要を作って回しているだけでは」という弱気派の疑いに対し、強気派は「クラウド各社の投資計画は数年先まで積み上がっていて、循環取引だけで+85%の成長は説明できない」と反論します。どちらが正しいかは1四半期では分かりません。だから毎回の決算で、外部顧客とネットワーキングがどれだけ伸びたかを確認していきます。強い決算ほど「その需要は本物か」を疑う。これが決算を読むときの鉄則です。
僕の見立て
僕の見立てはこうです。NVIDIAの覇権は当面崩れない。ただし覇権の中身は入れ替わっていく。学習で築いた独占が推論でも通用するかどうかはこれからの決算に数字として先に出ます。粗利率、そしてネットワーキングと外部顧客の伸び。この2ヶ所を定点観測すれば、見出しに振り回されずに済みます。
「株を買うべきか」という話はこの講座ではしません。渡したいのは銘柄ではなく、世界の構造を自分で読む力です。NVIDIAの決算はAIをめぐる世界全体の体温計で、これを読めるようになれば、ニュースを追う側から流れを読む側に立てます。
NVIDIAの次の決算は8月下旬です。この講座の答え合わせになる日程は決算カレンダーで毎週更新しているので、近づいたらそちらで確認してください。
第2回は「2つの堀」。粗利75%を守り続けているTSMCの生産枠とCUDA、それを崩そうとする挑戦者の話です。今日の数字の「なぜ」に踏み込みます。
それでは第2回でお会いしましょう。
会員限定資料(コミュニティで配布):「更新式・NVIDIA決算ダッシュボード」を配布。主要数字を四半期ごとに改訂し、改訂履歴付きで資料庫に置きます。
この回の資料(数字・出典入りの完全版)
スライドは決算のたびに数字を改訂します(現行 v1・2026年7月版)。






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※本記事は情報提供・教育を目的としており、個別銘柄の売買を推奨するものではありません。記載の数値・計画・提携内容は発表後に変更される可能性があります。投資の判断はご自身の責任でお願いします。
第2回から先は、AI企業ラボの中で公開しています
この続きでは、NVIDIAの決算を四半期ごとにどう読むか、どこで数字が崩れるとまずいのかを見ます。ラボでは企業完全解説53本に加えて、決算が出た当日に速報を届けています。
中身を見る →月額5,000円。合わないと感じたら初月分は返金します。

